九重町の竜門の滝では、享保年間に「滝壷に大蛇がいる」という噂が広まり、それを聞いた中津藩の丸山三平という武士が見とどけたいものだと考えた。
彼は滝の近くにある桜の馬場に馬をつなぎ、裸になって刀を背負い、得意の水練で滝壷に潜っていった。大蛇はなかなか見つからない。
二度、三度と潜っているうちに、水底にコケむした巨木が横たわっているのを見た。三平がそれに足をかけたところ、巨木と思ったものがむくむくと動き始めたではないか。これにはさすがの彼もびっくり。あわてて浮かび上がって馬場まで走った。
するとあたりは薄暗くなり、激しい雷鳴とともに大雨が降り始めた。
滝壷は波が逆巻き、たれこめた雲に向かって竜となった大蛇が昇天していく。
三平は夢中で馬に飛び乗り、ともかくも逃げようとムチをくれたとたん、ひときわ大きい雷鳴がとどろき光が走り、ひとたまりもなくその場で打ち殺されてしまったそうである。